5月1日、『ボイス・オブ・アメリカ』の記者である方冰が、「万達帝国王健林:安易に結びつくビジネスと権貴の関係」というタイトルで『ニューヨーク・タイムズ』紙に掲載された記事の著者である倍才徳にインタビューした。
方冰:まず最初に、この記事の取材と執筆の過程についてお訊きしたいのですが、かかった時間はどのくらいで、また取材した人は何人くらいでしたか?
傳才徳:時間は、だいたい1年ほどだったと思います。私が『ニューヨーク・タイムズ』に記事を書くようになって、最初に書いた比較的大きなものは、周永康に関する記事でした。去年の4月に発表したものです。そのあとすぐ、私は王健林帝国に目を向けました。以前、私は、もちろんブルームバーグ・ニュースにも記事を書いたことがあるのですが、その過程で20人から30人の人に取材をしているのです。紙幅の関係で、そのほとんどの人から聞いた話を記事にすることができませんでしたが、そういう話は、私が万達公司のことを理解する手助けとなりました。
方冰:2012年、あなたはブルームバーグ・ニュースの記者だったとき、習近平の家族の資産に関する記事を書きましたね。習近辛の家族の資産について書こうと思ったのはどうしてですか?
傳才徳:すべて薄熙来絡みなんですよ。2012年、中国の上層部の政治家が突然、ニュースのネタとしてとてもおもしろいものになったんです。以前は、私たち外国の記者にとって、中国の政治局常務委員などに特別の興味があるわけではありませんでした。全員男ですし、ネクタイの色はみな同じ色だし、それに、言っていることがいつも「我々はナニナニをやり遂げるべきである」というような、くだらない役人言葉ですしね。
でも、薄熙来事件が勃発したとたんに、中国の政治は私たち外国人記者にとってたいへん興味深いものへと変わりました。薄照来関連のものとしては、『ウォール・ストリート・ジャーナル』が2012年の2月と3月と4月に伝えたニュースがいちばん出来が良く、優秀なものでした。私たちブルームバーグ・ニュースも、金と政治がどんなところで結びついているのかについて、詳しい報道をしなければならないと思いました。私たちはそのときから、中国上層部の指導者の資産について調査をし始めたんです。
なぜかと言うと、『ウォール・ストリート・ジャーナル』がすでに優秀な記事を書いているので、私たちはそれを超えるようなものを書かねばならなかったからです。
調査を始めてみて、私たちは、それが非常におもしろい領域であることに気がつきました。当時、私たちブルームバーグ・ニュースは、何か温家宝一族の資産に関する記事を書くべきだと思っていたみですが、急に、習近平の家族のことも実に興味深いことが分かったんです。
しかも不思議なことに、習近平の家族の調査は、温家宝の家族の調査よりたやすいのですよ。それは、習近平一家は革命一家だからであり、父親は毛沢東時代に副総理を務めたこともある人ですから、共産党のウェブサイトには習近平一家の写真が載っていて、習近平の兄弟が誰であり、両親が誰であり、姉の夫が誰であるか、知ることができます。
ところが、ほかの人の家族については、もし革命の背景がないとなると、誰が誰の子供なのかを調べようとしても非常に難しいことになるのです。習近平の家族のことはわりあい調べやすいですね。ですから、最初はネットで調べて、その後は商工局の資料を使って彼らの資産を裏付けることができました。
方冰:実のところ、あなたが2012年に書いた習近平の家族の資産に関する最初の記事は、今回あなたが『ニューヨーク・タイムズ』に発表した文章より内容豊富なものでしたね?
傳才徳:そのとおりです。私たちが調査を始めた当初は、替橋橋(習近平の姉)にこれほど莫大な資産があるなどとは思ってもみませんでした。私たちが調べ上げたそれらの資産も、まだ完全なものではないかも知れません。私たちブルームバーグ・ニュースが習近平の家族の資産に関する記事を発表したのは、2012年6月でしたが、その記事の中でも万達公司のことに言及しています。私たちは、習近平の家族も万達の株を所有している可能性があることを知りましたが、そのときはまだ証拠がありませんでした。1年の調査を経て、私たちはより多くの工商局の内部文書を手に入れ、習近平の家族が万達の株を持っていることの裏付けを取って、そのニュースを報道し始めたのです。
方冰:必要な情報をどうやって集めたのですか?世間で言われているように、体制内の反対派が「リークした」のですか?
反対派から資料が提供されることはない
傳才徳:そうではありません。私は、体制内の反対派との間にそういった関係があればいいと思っていますが、決してそういう関係があるわけではありません。私たちが反対派から資料をもらっていると思っている人が大勢いますが、実際にはそんなことはないのです。
中国の企業に関する資料については、ほとんど何でも手に入ります。ネットで調べれば、年報が載っている企業もありますし、工商局の報告書もあります。私たちはそういう資料を使って習近平の資産を調べているのです。
それに、香港の不動産資料や香港の企業の資料も、これがまた実に優秀なものなんです。もちろん私たちは、人に対する取材もしています。たとえば企業の法定代表者などへの取材ですが、ただそれは習近平の姉や姉の夫ではなく、親戚であって、やはりだいぶ関係の遠い人でした。
ですから私は、北京で人に取材するときでも、その人の人間関係を尋ねるのです。その人が誰であり、その人の息子の妻などが誰と結婚しているのかを訊くのですが、後になってその人が習近平の親戚だということが分かった、などということがありますからね。そういうふうに、私たちは人への取材を通じて人間関係を確認しなければなりません。でも、そういう資料を私たちに提供してくれる反対派などは1人もいませんよ。
思うに、私たち記者は、国内でも国外でも、自分で調査する能力がなければならないでしょうね。中国で企業の情報を手に入れるのは、アメリカと比べたらずっと簡単ですよ。中国では、上場していない企業についても、工商局の資料は充実していますからね。これがアメリカとなると、上場していない企業の情報はまったく秘密に包まれているんです。知っているのは企業の経営者と会計係と税務所の3者だけで、あとは誰も知らないんです。でも中国では、そういう情報についてはおおやけにされています。ですからとても便利ですね。
普通の人が富豪である謎
方冰:あなたの記事には、王兆園や買慶林の親戚で万達の株を持っている人は、一見したところでは裕福そうに見えないのに、実は莫大な資産を持っている、と書かれていますが、それはいわゆる「白い手袋」という問題-きれいな白い手袋の下には汚れた手が隠されているということ。ここでは、不正蓄財をした人間が清廉を装ったり、あるいは所有する金の名義上の持ち主として影武者を立てたりしていることを言っている-なのですか?
傳才徳:そうです。彼らは、見た目にはさほど裕福ではありません。たとえば王兆國の妹の娘の楊欣ですが、彼女の住所は北京になっていて、その家はおんぼろです。でも、彼女はほんとうにそこに住んでいるのでしょうか?彼女はそこにはいないでしょうね。30年前、彼女の母親はどうやらその場所に住んでいたらしいのですが、現在彼女がどこにいるのか、私には分かっていません。
賈慶林の女婿の李伯潭にしても、潘永斌という部下がいるんですよ。私は北京を離れる前にこの人にインタビューしましたが、まったく何の変哲もない人でしたね。彼は、現在身体の具合が悪くて家にいるのだと言っていました。でも、彼の名義になっている万達の株式は3200万株もあり、時価の相場では2億ドル以上の価値なんです。それほど裕福な人なのに、北京にある実に平凡な家に住んでいるんです。
しかも彼から受ける印象は完全に労働者であって、ごくふつうの人なんです。しかし、法律上は、彼はたいへんな金持ちだというわけです。なぜ、そういった、何の変哲もないような人が、しかも身体の具合が悪いからと言って家にごろごろしているような人が、2007年には、王健林の持ち株会社である大連合興公司の上から5番目の大株主になれたのでしょうか?
どこにでもいるような人、それほど金があるわけでもない人、北京の東部にある小さな家に住んでいるような人、そういう人がなぜ大連合興公司の大株主になれたのかと言えば、それは、彼の雇い主が李伯潭先生だからなんですよ。実におもしろいですね。
謎の女性・金怡
方冰:あなたがブルームバーグ・ニュースにいるとき書いて没にされた記事がありましたが、あの記事の内容と、今回の『ニューヨーク・タイムズ』に掲載された記事の内容はだいたい同じなのですか?
傳才徳:だいたい同じです。どちらの内容も王健林と中国の指導者との関係ですから、同じものです。しかし、私はさらに1年調査をしていますから、『ニューヨーク・タイムズ』の記事のほうがいっそう行き届いたものになっています。調査の過程で浮かび上がってきたのが王兆園との関係や、それに温家宝の娘である温如春のビジネスパートナーとの関係です。
方冰:金怡のことですか?
傳才徳:そうそうそう、金怡、謎に包まれた金怡ですよ。いったい誰なんでしょうかねえ!でも私たちは彼女が興味深い人物だということは知っています。
北京に泰鴻投資公司という会社がありますね。段偉紅の会社ですよ。段偉紅はたいへん有名ですよね。私の同僚の張大衛が2012年に温家宝総理の家族の資産について書いた記事に、段偉紅が、きわめて重要な人物の1人として登場しています。3人の株主の名前が出てきていますが、段偉紅と温如春(常麗麗という偽名を用いている)、そして第3の人物が金怡です。
彼女の身分証には18ケタの数字が記されていて、それは万達の株主である金憎の数字と同じなんです。ですから間違いなく同一人物ですね。
また私たちは、以前は平安保険の株主だった会社が深圳にあることも調べました。それは張大衛が書いた記事とも関係のある会社です。もちろん私たちは、金怡は間違いなく温如春のビジネスパートナーだということは言えるのですが、ただ彼女が誰であるのかはまだ分からないのです。
私たちは彼女の故郷である山西省呂梁市柳林県に行ってきましたが、そこには金という名字の人は住んでいませんでした。それに、住所も不完全なもので、それに該当する所はありませんでした。また、私たちの同僚が現地政府に行って、住民の名前が網羅された資料にも当たっていますが、金という名字の人間は1人もいませんでした。実に奇妙ですね。引っ越しをしたという可能性もありますが、どうしても探し出すことができません。誰か中国のネットユーザーが助けてくれないかなあと思っているんですよ。
そのほかにもいろいろなことがあり、もう1年時間があれば、王健林帝国のことをもっとたくさん調べることができたんですけどね。
方冰:王健林帝国の記事の中で、あなたは王健林の資産と権力との関係について書いていますね。2007年の段階では、王健林の資産は10億足らずで、フージワーフの中国富豪ランキングでは148位だったのに、王兆國や賈慶林とのコネができた2008年になると、不動産価格が暴落したにもかかわらず、彼のランキングは急上昇して20位になり、その資産が倍以上にも増えたわけですが、それは権力との繋がりがあったからだということでしょうか?
賈塵林と王兆國の家族が所有する万達の株
傳才徳:そのとおりです。2007年というのはきわめて重要な年です。なぜなら、万達グループの株が大量に王兆國の息子の手に渡った年だからです。北京銘豪持ち株会社について見てみると、2007年9月、潘永斌が王健の大連合興公司の株を大量に入手しています。それから1か月が経った2007年10月、これもたいへん重要な月でして、中共第17回全国代表大会が開幕し、王健林はその17大の代表になっています。彼は、2008年3月には政治協商会議の常務委員になりましたが、その政治協商会議の主席は賈慶林でした。
王兆國の息子の王新宇や潘永斌が購入したときの株の価格は実に安いものでした。その株式購入に要した金は、潘永斌が120万元、王新字の会社が300万元でしたが、現在では、王新宇の持っている株、あるいは楊欣(王兆國の妹の娘)の持っている株と言ったほうがいいのかも知れませんが、その価格は6億ドルを超えているはずで、1000倍以上に増えたことになります。私は、これは重大なことだと考えています。王新宇と潘永斌の2人共、その投資した金が1000倍に膨れ上がっているのですからね。
2007年、彼らの間でどのような話が交わされたのか、それはまだ分かっていません。私は、もう1度調査をして、その関係のことを書こうと思っています。工商局の資料はあるのですが、王健林と賈慶林や王兆園の家族との間でどのような話があったのか、王健林は彼らに何と言ったのか、彼らはどのような協議をおこなったのか、それがまだ分かっていないからです。
私たちは、そういうことに関する質問は誰にぶつければいいのか、それは知っていましたから、調査をしていた最後の1年間、多くの人に電話をかけました。企業の法定代表や董事たちにです。でも、誰もそういうことを話してくれようとはしませんでした。
その頃、私たちは、そのほかにも万達への投資者がいることを知りました。習近平の姉や金怡のことです。
去年、香港で上場した大連万達グループの不動産部門の企業の大株主のうち、その20番目までに、賈慶林の家族、王兆國の家族、習近平の家族、温家宝の家族という4つの家族や、それらの者たちのビジネスパートナーがわりあい多く含まれています。
彼らの投資額は、現在その株価が上がっていることから、15億ドルから16億ドルにも達するものと思われます。
新しい株主は賓橋橋置郵家貴の企業の古参スタッフ
方冰:習近平の姉の齋橋橋は、その株をすでに人に譲渡しているのではありませんでしたか?
傳才徳:そのとおりです。2013年10月8日、齋橋橋は、秦川大地公司の持ち株を徐再生という人に譲渡しています。しかし、徐再生は齋橋橋らの会社のスタッフであり、副社長ですよ。つまり、齋橋橋らが北京に持っている遠為投資公司という投資会社のスタッフ、副社長ということです。
齋橋橋らが北京に持っている持ち株会社は北京秦川大地投資公司です。これらの内部文書には徐再生の写真もあるし、そのほかあの情報も載っています。徐再生がどこの大学に入学したとか、どこに務めていたとか、何でも書いてあるんですよ。
この資料によると、徐再生は2000年に遠為公司で働き始めたということですね。ですから、2013年には、彼はすでに13年間も齋橋橋や鄧家貴と一緒に仕事をしていたわけです。それに、彼自身も、齋橋橋や鄧家貴が他所に持っている会社の法定代表、あるいは董事になっています。そういうわけで、私たちは齋橋橋が持っていた大連万達グループの株は相変わらず齋橋橋のものであると言うことはできないにしても、多少の疑惑は残るということですよ。
今回の『ニューヨーク・タイムズ』の記事の中では、そういう物言いはできませんでしたが、私たちはこの文章を読んでくださる読者になら、はっきり言ってもいいでしょう。齋橋橋から大連万達グループの株を譲渡された新しい株主というのは、その齋橋橋らのスタッフであり、当時すでに齋橋橋らとは13年もいっしょに働いたことのある人間だった、と。その関係は現在では15年にもなるのだ、と。
万達には興味深い株主がたくさんいる
方冰:『ニューヨーク・タイムズ』に発表した今回の記事は、あなたが以前書いて没にされた記事を復活させたものであり、起死回生の記事であると言っていいのでしょうか?
傳才徳‥はい、一種の復活です。ただし、言っておかねばならないのは、私たちは『ニューヨーク・タイムズ』の記事の中ではブルームバーグ・ニュースの資料を使うことはできなかった、ということです。ですから、私たちは独自に新たな資料を、まったく新しい資料を手に入れなければなりませんでした。もちろん、私の頭の中にはまだ、ブルームバーグ・ニュースがどうやってそういう資料を入手したか、その記憶が残っていました。
ですから、私にとって、そういった重要な資料を集めるのはわりあいたやすいことでした。むずかしかったのは、私たちがブルームバーグ・ニュースで報道した内容をさらに一歩進めて、新たな株主を見つけ出すことでした。ブルームバーグ・ニュースで報道したのとまったく同じ記事を書くわけにはいかなかったからです。
でも私は、愛国思想を持った中国人(記者)もいるのではないか、そういう人たちが調査をすれば、万達の株主のことをもっと詳しく知ることができるのではないかとも考えていました。まだまだ多くの興味深い株主がいるというのに、私たちには時間がなく、また彼らの繋がりを証明する手だてもありませんでした。だから私は、そういう愛国的な記者、国家の大事に対して特別の興味を抱いている記者が中国国内にいて調査をおこない、大連万達の株主に会えば、新しいことが分かってくるかもしれない、と思っていたのです。
方冰:あなたはブルームバーグ・ニュースで13年仕事をしてきて、あの記事を書いたために停職となり、それからニューヨーク・タイムズに移って調査を続けてきました。たいへんな精力を費やして、大きな挫折を味わって、それで引き合うとお考えですか?引き合うとすればそれはなぜですか?
傳才徳‥なぜ引き合うのか?それはですね、私は、国内に、中国国内にですが、世界で最も優秀な記者がいると思っているからです。しかし、どうやらそういう記者には自分の国のわりあい重要な事を調査する自由がないらしい。
でもいつかは、そういう記者が自由に調査できる目が来るかも知れない。そうなれば、私たち外国人記者も少しは手を引くことができるでしょう。
でも今は、私がしているようなことは、私たち外国人記者がしなければならないことだと思います。なぜなら、中国はそれほど重要な国だからです。これから5年先、6年先には、中国はアメリカを追い抜いて世界最大の経済大国になるかもしれません。ですから、私たちのような記者は、中国人記者であれ外国人記者であれ、中国の指導者に対して、オバマやクリントンやブッシュに対するのと同じような接し方をするべきなのです。
つまり、彼らの資産の情況を詳しく見るということです。ずいぶん矛盾したことがあるようですからね。私たちは中国のことを馬鹿にしている、或いは中国のことを嫌っている、と言う中国人はたくさんいます。
しかし実のところ、それは完全に間違っています。だって、それならどうして私たちは1年も時間をかけて調査をしたのでしょうか。また、どうしてそれが引き合うなどと言っているのでしょうか。それは、中国がそれに値する国だからであり、中国が非常に重要な国だからです。
私は、この万達の一件はたいへん重要なことだと思っています。だから、多くの時間を犠牲にしても調査する必要があるのです。私たちは、中国もアメリカも変わりはないと考えています。私たちは、オバマをはじめアメリカの政治指導者の資産を調べるべきだし……ほら、クリントンのことですが、最近『ニューヨーク・タイムズ』が、ヒラリー・クリントンについての記事をずいぶん書いていますね。中国も同じように重要な国ではありませんか。だから私たちは、こうして中国の政治指導者の資産に関する調査をおこなうのは価値のあることだと思っているわけなんです。
方冰:現在、あなたは中国への入国ビザがないのではありませんか?
傳才徳:そうです。私はこのところずっと香港に行っていますよ。
方冰:香港から中国の情報を発信しなければならないというわけですか。外国人記者が中国の情報を伝えるに当たって、いちばんむずかしいと感じるのはどんなことですか?
傳才徳:中国のことを報道するのは、もちろんむずかしいことです。でも、北京のオフィスにも上海のオフィスにも、まだ多くの同僚がいて、私を助けてくれています。確かにむずかしいですけどね。それでも、香港にやってくる中国人は大勢いますから、私はそういう人々を取材して多くのことを知ることができます。
彼らは香港に来ると安心できる、というようなことがあるようですね。だから、やはり香港は実におもしろい所ですよ。それに、金のある人はみな香港に会社を持っています。でも、いちばん理想的なのは、やはり北京や上海で仕事をすることです。それに比べると、香港ではちょっと仕事がやりずらい。私の場合、どうしても中国本土にいる同僚に協力してもらわねばなりません。
方冰:コロンビア大学ジャーナリズム研究科大学院のハワード・フレンチ教授(中国語名は「傳好文」)は、『コロンビア・ジャーナリズム・レビュー』(同大学院が発行する隔月刊の学術誌)に、あなたは2012年6月29日に習近平の家族の資産に関する最初の記事を発表したあと、殺してやるという脅迫を何度も受けている、と書いていますが、そうなのですか?
傳才徳:はい、脅迫を受けました。実に恐ろしい思いをさせられたこともありますよ。そのとき、ブルームバーグ・ニュースが調査をしてくれたんです。その結果、中国に戻っても大丈夫だろうということになり、それで私たちは2012年8月に北京に戻りました。それから2013年8月まで、まったく問題はありませんでした。
もちろん、2012年の夏の一時期は、おそろしい時間を過ごしましたが、結果的には何の問題もなかったようです。中国はロシアとは違う、中国は正常な国だ、問題はいろいろあるが、決してロシアのような国ではない、と言う人もいますね。確かに私は脅迫を受けましたが、私が北京に戻ってもまったく何の問題もありませんでした。
方冰:今回の『ニューヨーク・タイムズ』の記事が発表されたあと、何か反応がありましたか?脅迫に関してはどうですか?
傳才徳:今回の記事が発表されたのは4月28日でしたが、それから現在まで、まだ中国政府筋からの反応はなく、万達公司からの反応もないというのが興味深いですね。しかも、王思聡(王健林の息子)の短文投稿サイトにも反応は現われていないので、私は少し奇妙に感じているところです。彼らは、「自分たちが何も言わなければ何も問題はなかったことになる」と考えているのかもしれません。
方冰:インタビューを受けてくださり、ありがとうございました。
(「月刊中国」155号 2015年8月号より)
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