中共メディアの報道によると、2015年6月10日、中共中央総書記・習近平は、チベット人なら誰でも「偽のパンチェンラマ」と呼んでいる「チベット人僧侶ギェンツェン・ノルブ」と会見した。
その会見の狙いは、「偽のパンチェンラマ」の知名度を上げ、その影響力を強めようということだったが、実は、もし習近平がほんとうに「チベット人僧侶ギェンツェン・ノルブ」の知名度を上げその影響力を強めようと思うのなら、ただ彼に、共産党が授けた「共産党に忠節を尽くす使命」を重ねて言明させるべきではなく、思い切って彼を励まし、パンチェンラマ10世が実現しようとして果たせなかった大願を彼が推進できるようにしてやるべきなのである。
さもなければ、その会見も、前任の江沢民や胡錦濤によるものと何ら変わりがなく、ひいてはチベット人がこの無事の僧侶を仇敵視するのを煽っているだけになる。それならば、「チベット人僧侶ギェンツェン・ノルブ」が果たすべき使命は何なのか。
そして彼に与えられた絶好の機会というのは何を指すのか?
パンチェンラマ10世の大願を推進する
パンチェンラマ10世は「名誉回復半ば」(1988年5月までのところ、いわゆる「反人民・反社会主義・叛乱の陰謀」の3つの犯罪のレッテルがまだ貼られたままである)の指導者であり、また歴代のパンチェンラマのうち初めて還俗を強要された大活仏である。
そのため、パンチェンラマ10世が受けた迫害は中共政府の責任であると言える。ただし、それは、中共内部にパンチェンラマに同情的な政治家がいなかったということと同義ではない。習仲勲・萬里・范明なども、当時は中共の被害者であり、清明などは「名誉回復半ば」の政治家でもある。
パンチェンラマ10世は1989年、亡くなる前にチベットのシガツェを訪れているが、そのとき、80歳近い高齢の習仲勲が北京の空港まで見送りにきている。漢人の習慣ということから言えば習仲勲は道義上の友人としての責任を果たしたことになる。なぜなら、元の中共西北局は最初にパンチェンラマ僧官会議庁と関係・を持った機関だったが、時の西北局指導者というのが彭徳懐と習仲勲だったからである。
当時、中共の西南局はチベット占領の任務を担当していたが、その首領は劉伯承と鄧小平だった。その後チベットでは、チベットの将来の主導権をめぐる中共の西南局と西北局の内部闘争が激化した。
だがチベット人にとっては、西南局が主導しようと西北局が主導しようと、チベットの将来にたいした違いはなかった。20世紀の80年代、全国人民代表大会の小組討論会で、パンチェンラマ10世は公然と次のように指摘した。
「『チベットの自治』を樹立することば情理にも合い、合法的であるだけでなく、多くのチベット族人民の心願でもある。そこには逆行とか反動とかの問題は存在しない」
ギェンツエン・ノルブにとって絶好の機会
理屈から言えば、仏法には国境がなく、また民族の違いもなく、活仏についても同様であるが、いわゆる「真」と「偽」は、一定の手続きと有資格者による認定という歴史的制度によって決定される。そのため、「パンチェンラマの生まれ変わりの児童の問題」をチベット人と漢人の対立に利用しようとするのは賢明ではないし、非常に危険なことでもある。
ダライラマ14世は24歳で亡命し、パンチェンラマ10世は22歳で『7万言上書』という意見書を提出した。もし「チベット人僧侶ギェンツェン・ノルブ」が大活仏になりたいと思うのなら、その絶好の機会はもしかするとすでに到来しているのかも知れない。
「チベット人僧侶ギェンツェン・ノルブ」は一般のチベット人とは違って「パンチェンラマ11世」を救済する能力がある。なぜなら、中共と駆け引きできるような資本を持っているのは「チベット人僧侶ギェンツェン・ノルブ」ただ1人だからである。
中共メディアは次のように報道している。
「2011年7月22日、時の中共中央政治局常務委員・国家副主席・中共中央軍事委員会副主席・中共中央代表団団長だった習近平は、中央代表団の一部のメンバーを率いてチベット自治区シガツェ市にあるタシルンポ寺を参観し、パンチェンラマ10世の遺体が納められている仏塔にハタ(チベット人が神仏に献じる帯状の薄い絹布)を捧げた。また習近平は、仏塔殿とその前庭に掲げるための、胡錦溝の直筆による「チベットの平和的解放60周年を祝う」と書かれた祝賀の横幕と『中華大蔵経(チベット語版)』をタシルンポ寺に贈呈するとともに、僧侶に布施をした」
実は、「チベット人僧侶ギェンツェン・ノルブ」が行動を起こせば、それは一種、双方にメリットをもたらす結果になる。もしパンチェンラマ11世をその軟禁状態から救済することができれば、「チベット人僧侶ギェンツェン・ノルブ」の声望は、当のパンチェンラマ11世をはるかに凌ぐことになるだけでなく、全チベット人および世界中の敬愛を受けることになるはずである。だから、それは十分効果が見込める実施プランであり、またおそらく最上のプランでもある。
(「月刊中国」157号 2015年10月発行 より)
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