人工島による海上長城の建造
2014年12月、中央軍事委員会拡大会議で、習近平は腐敗撲滅の虎退治による人員の大規模な入れ替えを指示して50余名の大軍区副級の将校を抜擢したが、沈金龍もその1人だった。沈金龍は、それまでの南海艦隊副司令官から海軍総司令部副司令官へと栄転した蒋偉烈に代わって、その南海艦隊の正司令官に就任したのである。
もう1人、元南海艦隊政治委員だった王登平も、この2年間の人工島建設プロジェクトへのきめ細かな協力が評価されて昇官し、蒋偉烈と共に海軍総司令部に転任して、自殺した馬發祥中将に代わって海軍副政治委員になった。
新任の南海艦隊政治委員で東海艦隊から転任してきた劉明利は、元は政治部主任であったが、沈金龍と共に「南シナ海長城」の建造に携わって昇進を果たした人間である。
南海艦隊の軍事行政を管理する者たちの交替や昇官は、いずれも、人工島建設計画に関する政治的業績が秀でていたことによるものである。沈金龍の責任はとりわけ重大であり、前任者の蒋偉烈や王登平を助けて後方支援の保障に全力を挙げ、軍民融合の道を歩み、民営のインフラ建設企業と緊密な協力体制を敷いて、海運する建材(石材・材木・コンクリート用の鉄筋など)の検査を督促し、わずか3年という時間内に、南沙諸島のファイアリー・クロス礁(中国はこれを「永暑礁」と呼んで支配している)を中心に海を埋め立て、すでに8つの人工島を建設している。
その海域にはジョンソン南礁(中国名は「赤瓜礁」)・スービ礁(中国名は「渚碧礁」)・ヒューズ礁(中国名は「東門礁」)・ミスチーフ礁(中国名は「美済礁」)などが含まれているが、アメリカ・日本・フィリピンなどはこれに重大な関心を)寄せ、「中国はその強大な軍事力を背景に、南シナ海における軍事基地を拡張している」と非難している。
南海艦隊が大規模な人工島建設をしている目的は、大型の海軍・空軍用の人工島を作って国威を発揚し、戦わずして相手を屈服せしめるためであり、また大国の実力を見せつけるという鍔迫り合い(つばせりあい)のためでもある。
南海艦隊は真っ先にその矢面に立ち、新任の司令官である沈金龍や新任の政治委員である劉明利が命令を受けて「人工島建設指揮部」を設立したが、軍事委員会は総後勤部・海軍連携サービス部・広州軍区の関係部門に対してそれに協力するよう指示を出し、また広東省や海南省の地方政府もそれに対して全面的な支持をおこなっている。
2020年までには、海を埋め立てて陸地を造営した結果すでに永暑「礁」変じて永暑「島」となっている場所の総面積を104平方キロメートルに拡張し、これが南沙諸島最大の海軍基地になることが期待されている。そこには最新の高周波目視距離外レーダーを装備し、また南シナ海防空識別圏を設置することが計画されている。
この壮大な海上の長城とも言うべき人工島建設プロジェクトは、投資予算総額がおよそ736億元だが、これに付帯設備のための支出を合わせると、必要な資金は1000億元を超えるものと見込まれている。確かにこれはとてつもない計画であり、西側諸国を震撼させ、居ても立ってもいられないほど不安に陥れているのも不思議ではない。
聞くところによると、この途方もない大計画は、習近平が総書記となった中共第18回全国代表大会のときに始まったものとされているが、海南省に三沙市が設置されたときからすでにその計画は練られており、呉勝利(現在は海軍司令官)・蘇支前(現在は東海艦隊司令官)・蘇士亮(後に海軍副司令官になり、現在はすでに退職)・蒋偉烈ら当時からの数代にわたる南海艦隊司令官が共に唱導し画策していたものであり、当初は永暑礁・赤瓜礁などの環礁で海を埋め立て、環状堰を築いて人工島を建設する、ということを進め、広東省の湛江市や海南省の三亜市からひっきりなしに鋼材・コンクリート・石材などを運び込んでいた。
1立方メートル当たりの運賃は約75元で、海を埋め立てる工事の費用は1立方メートル当たり116元だった。今では、永暑礁は人工島となってその面積が3平方キロメートル超にまで拡張され、元の面積の10倍も大きくなって、ミサイル護衛艦も停泊可能となっているだけでなく、同時に3000メートルの滑走路も建設されて、戦闘機の離着陸にも使用できるようになっている。
沈金龍はおととし南海艦隊に転任してきたばかりだが、以前、大連艦艇学院や海軍指揮学院の院長を歴任し、外国留学の経験もあり、島唄基地建設に関わる外国の軍隊の先進性を知悉している。
現在、蒋偉烈の後を引き継いで人工島建設プロジェクトを統率している沈金龍の任務は慶大かつ困難をきわめるものである上に、大量の技能労働者や出稼ぎ労働者を召集しなければならない。それと同時に、定期的に駆逐艦やミサイル護衛艦を交替で南沙諸島海域に派遣してパトロールさせ、それをふだんの戦備訓練と一体化させて、いつでも敵対勢力、とりわけアメリカ軍機の傍聴監視偵察に対処できるようにしておかなければならない。
これらの任務は先例がないほど困難で複雑であり、まさに沈金龍の智慧と臨機応変の度胸が試されるものとなっている。
海の埋め立て費用は1000億元
中国が南沙諸島でおこなっている人工島の建設は大きな物議を醸しており、特にアメリカ・日本・フィリピンの軍当局の指導者は盛んに口汚く非難している。それに対し、中国外交部は続けざまに何度もおおやけに反駁し、中国は領海の主権の範囲内で人工島を建設しているのであり、それば情理に合う合法的なものであって、また航行の安全にも影響を与えることはなく、外国にとやかく言われる筋合いではない、としている。
総参謀部と南海艦隊は一貫して沈黙を守り、黙々と計画に従ってコンクリート製のケーソンを積み上げて海を埋め立て、岩礁だった所の面積を次第に拡大している。そしてその様子は、西側諸国の衛星が絶えず偵察し、監視しているのである。
これは、国力と軍の威信をかけた力比べであり、強大な財力・人力・物力がなければ実現できるものではない。事実上、南シナ海を取り巻く諸国であるベトナム・マレーシア・フィリピンなどは、つとに人工島の建設をおこない、石油を採掘している。
中国は九段線(中国が南シナ海の領有権を主張して地図上に引いている9本の点線)内の領海にある島唄や岩礁の主権を確保するため、今ごろになってやっと人工島の建設に力を入れ始めたわけだが、いくらか遅れを取ったとは言え、まだ時機を逸したわけではなく、折よく、習近平による「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)」構想や「AIIB(アジアインフラ投資銀行)」設立という全世界的外交の大戦略とも呼応して、中国は大国化・軍事路線拡大化への夢を着々と実現しつつある。
それぞれ北海艦隊と東海艦隊からやってきた沈金龍と政治委員の劉明利が、この海の埋め立てプロジェクトを手がけるというのは、まことに前例のない試練である。なぜなら、これほどとてつもない規模で、また途方もない困難を伴う人工島建設プロジェクトはこれまでおこなわれたことがないからであり、しかも1000億元もの投資予算が見込まれるからである。
腐敗撲滅運動が燃え盛っていた去年、南海艦隊でも、元装備部長だった姜中華が自殺するという事件が発生したが、その原因はまったく謎に包まれていた。海の埋め立て工事の資材購入における収賄と関係があるのだろうか?当時は蒋偉烈と政治委員が南海艦隊の統率権を握り、沈金龍は副司令官を務めており、彼らは、艦隊上層部の情況は知悉しているはずだった。
しかし南海艦隊では、会計検査部門が厳しく目を光らせていたにもかかわらず、従来から何度も、職権を乱用して軍隊や地元政府に所属する埠頭を賃貸ししたり売却したり、あるいは密貿易をしたりするというような規律違反の事件が発生していた。
改革の最前線に位置していた姜中華は、早い時期に支隊長を務めていたが、そのあと装備部を管轄するようになり、金銭財物との付き合いが始まって、会計監査部門の追及を免れず、おそらく罪から逃れようもないということを知り、それで故郷の漸江省で休暇を過ごしていた機会を捉えて自殺するという道を選んだのかもしれない。
しかし当局は如何なる報道もしていない。この事件は、このところ少なからぬ高級幹部が法の裁きを恐れて自殺していることと関係があるのではないかという疑いも大きいが、最近摘発された14人の汚職少将のリストの中には姜中華の名前は含まれておらず、そこにはただ、北海艦隊副参謀長だった程傑の名前が載っているだけだった。
このことからは、軍隊ではどこでも、汚職をして私腹を肥やしている大小の虎が少なからずいることを隠していることが見て取れる。最近、軍隊における最大の虎である郭伯雄が拘禁されたということが伝えられたが、おそらくこの事件はいよいよ広がりを見せて、家族ぐるみによる汚職のネットワークへと波及していくかもしれない。
南海艦隊についても、姜中華のほかにも似たような汚職高官が隠れているのかどうか、それは知る由もないが、新任の司令官らの指導者はすみやかに徹底した厳しい調査をすることが必要である。
沈金龍ら新任の高官たち自身も、政治審査や財務規律検査という関門を通過しなければならず、そうでなければ抜擢され重用されることはあり得ない。沈金龍は、南海艦隊に転任してから1年あまりしか時間がたっていないので、まだその情況は分からないが、沈金龍にはコネを結んだりってを求めたりする機会があったはずはない。
まして、新しく南海艦隊にやってきた政治委員とは互いに監督し合う立場であり、また軍内における虎退治が相次いでいる時にも当たっている。沈金龍は、四風(形式主義・官僚主義・享楽主義・贅沢主義という4づの気風)に反対し、次第に正しい気風を南海艦隊に取り戻してくれるものと見られている。
最近おこなわれた全軍政治工作会議では、総政治部から、現代の軍人は「気概」や革命的人生観を養って「覇気」を持ち、「士気」を高め、演習のさいは「殺気」を減らせなければいけない、という意見が提出された。
だが、兵営における贅沢三昧の気風や一人っ子が多いこと、それに肥満症といったようなことが、往々にして「替りと甘えの気風」を露呈させており、そこには、勇敢に戦って犠牲になることも恐れないという「気概」からははなはだ遠いものがある。これが解放軍の最大の内憂である。
亜龍湾原子力潜水艦基地を鋭意拡張
南シナ海情勢は引き続き緊張しており、近年では南海艦隊の兵力も大いに強化され、新たな高官が任命されていることにもそれなりの理由があるわけである。
沈金龍は学究肌のタイプだが、潜水艦の乗員をした経験があり、しかも遠方へ航行する潜水艦の編隊の指揮を執っていたこともある。また沈金龍は初めてアメリカ軍との共同演習に参加した人間であり、そして特に亜龍湾原子力潜水艦基地の建設や対潜水艦攻撃の配備、および三亜航空母艦基地の建設に重点を置いていることでも知られている。
問題は、アメリカ軍がアジア・太平洋地域に帰還し、絶えず艦船や航空機を派遣して近接距離から海南島を偵察したり傍聴監視したりし、南海艦隊の動きを逐一収集していることにより、双方の力比べがェスカレートしていることである。
南海艦隊は、すでに三重の潜水艦偵察ネットワークを構築して防備を強化しており、西沙諸島や南沙諸島の周辺には60基の深海潜水ソナーが設置され、敵方の潜水艦の動きを追跡できるようになっている。
三亜原子力潜水艦基地は、南海艦隊の中ではいちばん規模の大きい堅固な海底長城であり、またアジアにおける最先端の基地でもある。だが、すでにアメリカや日本の衛星によって偵察され、その存在が暴露されている。これまでの南海艦隊司令官たちはみな、同基地の安全および後方支援の保障を重視してきたが、沈金龍も、南海艦隊司令官に就任して以来、何度も現地に赴いて監督指導や調査研究をおこなっている。
聞くところによれば、海軍最新の「096」(唐級)原子力潜水艦はすでに同基地の水中航路に配備されており、山の岩層の下には18キロメートルにも及ぶ深海のバースが建設済みだが、それは山や水に面しているのできわめて人目につかない状態にあるという。ほかにも水中の出入り口が3つ作られ、また水面上の進出口も11か所設けられており、比較的静音性に優れた潜水艦の遮蔽という役割を果たしている。このように、同基地は確かに理想的な戦略的原子力潜水艦の基地であり、青島の沙子口と大連の小平島にある北海艦隊の2つの潜水艦基地と比べるとはるかに優れたものとなっている。
現在、南海艦隊の管轄下には2つの潜水艦支隊があり、それぞれ通常の「039A」型・「039G」型・「041」(元級)型潜水艦を10余隻と、「093D」型・「094」(晋級)型の攻撃型原子力潜水艦を約4隻装備しており、そのほか、今まさに試験航行中である「096」型潜水艦もある。
西側情報筋によると、中国は上記の大型原子力潜水艦を合わせて5隻建造する計画であり、2020年にはそれらのすべてを新たに就役させて、効果的な核抑止力の第二弾の戦略兵器にするという。この攻撃型原子力潜水艦には垂直発射が可能な「巨浪2型」大陸間弾道ミサイルや超音速の「最新鷹撃18」巡航ミサイルが配備されている。
この10年来、南海艦隊が規模や装備を鋭意拡張させているのは、主として、日増しに厳しさを増している領海主権争奪戦に対処するためである。人工島建設に力を入れているほかにも、絶えず各種の水上艦艇、とりわけ最新の「052CD型」ミサイル駆逐艦を増加配備している。
この艦艇は、中国独自の研究開発による第3世代の軍備に属する最も優れた大型艦艇で、そあ建造費用は40億元に上るものである。最近、「昆明艦」(ペナント・ナンバーは172)が1隻、正式に南海艦隊に投入され、臨戦体制による南シナ海のパトロールを開始している。
そのほか、「054D型」ミサイル護衛艦もあり、この建造費は30億元だが、その中にはすでに輸出され外貨を稼いでいるものもある。
こうして、新たな装備が陸続と南海艦隊に補充編入されて編隊の作戦能力が大いに強化され、その実力は現在すでに東海艦隊や北海艦隊をはるかに凌ぎ、海軍の編制中でも最大の艦隊となっている。それと釣り合うようにするためには、もちろんリーダーとなる者の隊列を考えなければならないが、南海艦隊には元々、外国に留学経験のある博士や修士の艦長がおり、近年、それらの者たちは支隊長あるいは艦隊副参謀長へと昇進している。
沈金龍は、その身分は新任の司令官だが、才能のある人材を育成することに重点を置いていることは間違いない。沈金龍は艦艇学院や「海軍指揮学院」の院長を歴任し、多くの新しいタイプの中級幹部を育成してきているが、その者たちは沈金龍の門下生であるのみならず、今では沈金龍の部下でもある。
また沈金龍は、情報戦が得意な者たちをほかの艦隊から大勢引き抜いて、南海艦隊の連合作戦のリーダーの陣立てを充実させることにも力を入れている。また、そうしなければ、南シナ海の九段線の領海の主権を守ることはできないのである。
大胆な改革を提唱した沈金龍
沈金龍は1956年10月生まれの漢族であり、原籍は上海市南匪区であり、繁華街に親しむという典型的な上海の青年だった。人目を引くほど聡明で、臨機応変の対処ができ、現代の海戦を指揮することができる天賦の特質を備えている。
それに加えて研究熱心で、多くの学術論文も書いており、ついに頭角を現わして「大連艦艇学院」の院長に任命された。
沈金龍は、それ以前にも北海艦隊で護衛艦や駆逐艦の艦長をしたことがあり、後に駆逐護衛艦第10支隊参謀長および支隊長に昇進している。沈金龍の入隊は潜水艦学院への入学から始まり、卒業後は北海艦隊で潜水艦部門の長官を務めたこともあるが、体格が不適合であるという理由で水上艦艇部門に移った。
大連艦艇学院艦長班に入学して優秀な成績を収め、艦長の合格証書を獲得してからは水上艦艇への乗船勤務を続け、順を追って艦長に抜擢されるまでになった。
沈金龍は、艦艇学院院長を務めていた2011年8月、ロシアと北朝鮮からの招待に応じて、同学院指揮系を卒業した研修生(その中には、同学院初の女性研修生も含まれていた)を引き連れて「鄭和号」に乗船し、訓練艦の編隊と共にその2か国に赴いて交流し、ロシア軍や北朝鮮軍の艦艇の装備や先進的な経験について学んでいる。
沈金龍が編隊を率いて外国に行ったのはそれが最初だが、沈金龍は前世紀にロシア海軍の指揮学院に留学したことがあり、研修生たちを引き連れてロシア海軍と交流した主たる理由というのも、新しい世代の海軍の人材を育成し、彼らの視野を広げ、情報化が進んだ外国軍の指揮技術を学ばせたかったからである。また、北朝鮮を訪問したのは、同国との意思の疎通を図ると共に、同国の海軍の実況を探り出すという意味があった。
何と言っても北朝鮮は大きく立ち後れており、どうしても中共海軍が援助してやることが必要だからである。
沈金龍は、艦艇学院の院長を3年務め、また編隊を率いてロシアや北朝鮮に赴いてから間もない2011年10月、突然、昇進して「海軍指揮学院」院長に転任させられ、中級指導幹部の育成に力を注ぐことになった。沈金龍に白羽の矢が立った主たる理由は、彼には学校運営の経験があり、教えることや人材を育成することに長けているからである。
沈金龍は「教育と訓練を緊密に連携させる」という教育改革を打ち出すと共に、艦艇学院や海軍指揮学院はこれまで以上に「外に出て行くこと」と「外から人を招くこと」が必要であるとして、教員に対しては、必ず現場に目を向け、自ら艦艇部隊に入って演習や訓練を一緒に受け、艦載兵器や装備の性能や特徴を飲み込んで、教育効果を向上させることを求めた。
その主旨は、実戦を想定して、素質の高い万能の艦長を集中的に育成するということである。次に「外から人を招く」というのは、高学歴で支隊長以上の経験を持った現任の高官や著名な学者を招増し、客員教授になってもらい、その実践的な経験によって、研修生の学習能力や素質における問題点を指摘してもらう、ということである。ちなみに、現任の東海艦隊司令官である蘇支前や海軍参謀長の郵延鵬は海軍指揮学院の教員を兼任している。
沈金龍が打ち出した指導方針は、人民解放軍総参謀部軍事訓練部および国防大学をはじめとする高等軍事教育機関から、それらの学校における教育改革の重要な措置として認められた。その措置とは、伝統的な古いしきたりや隔習を破って、学習の場を演習や訓練の現場に移し、教材を現役艦艇の最新の装備や兵器と連携させる、というものである。
近年、新型の対艦防空ミサイルが飛躍的な発展を遂げ、それにまた航空母艦艦載機や新たに進水した「071型」と「073型」の大型水陸両用ドック揚陸艦など、艦艇建造の速度や数量は世界でも上位に数えられるものとなっている。新たな装備を扱うためには、先端技術を専門とする人材をこれまで以上に育成することが求められるが、そのため軍事教育機関では沈金龍が采配を振る改革を当然のこととして、新人の育成に力を入れているのである。
アメリカ軍の環太平洋合同演習に参加
沈金龍は、中共第18全国代表大会に出席する軍代表に選出されたが、当時「海軍指揮学院」院長だった彼は、会議の席上、「軍事闘争の準備の実践をしっかりと見据え、社会主義市場経済を見据え、軍隊建設や軍隊統制の特徴や規律の研究に深く分け入り、情報戦能力を向上させなければならない」と発言した。
また彼は、軍事教育機関の代表として;「外に出て行くこと」と「外から人を招くこと」を主張したが、それは明らかに、市場経済による強大な国力を重視していることの表われであり、軍事闘争の準備の過程においてはどうしても軍と民を融合させた大規模な戦略を貫徹することが必要で、国防建設・艦艇の建造・人工島の建設は、民営の科学技術企業からの支援や協力を十分に得られることを抜きにして考えることはできず、軍隊建設や軍隊統制についても、もちろんそれらの特徴や規律を踏まえたものでなければならず、そうしてこそ軍事闘争の準備を発展させることができる、ということを言っている。
沈金龍は人民代表大会の代表に選出されたこともなく、また中共第18回全国代表大会でもまだ委員候補となることができず、一般の、軍隊における党代表にすぎず、そのため、中央の党や政府における職権の位階という点では弱い立場である。
だが、沈金龍の前任者・蒋偉烈は中央委員の候補者であり、またその階級は中将だった。だから、現在はその階級が少将である沈金龍にも、来年は中将の位階が授けられるのではないかと見られている。
沈金龍は長年、官途の道を歩むのにコネや手づるを使ったことがなく、それで、これまでは目覚ましい昇進というものがなかったのである。
沈金龍はこれまで、編隊を率いてアデン湾(アラビア半島とソマリア半島に挟まれた湾)に行くという護衛任務に就いた′ことはないが、現在では3大艦隊の半数以上の高官は、ほとんどみなアデン湾への護衛任務を指揮したことがあり、海軍当局ではその護衛任務を通常の遠洋練兵と見なしている。その目的は、艦隊の実戦能力を鍛えるためである。
沈金龍が昇進して南海艦隊の司令部こ任命されてからまだ間もない去年の暮、海軍総司令部は広東省湛江市で、護衛任務6周年を記念する盛大な祝賀行儀を挙行した。
海軍司令官の呉勝利と総参謀部の指導者たちがそろって出席し、南海艦隊からはその主力艦船である「四大金剛」「海口」「蘭州」などを海上閲兵のために派遣した。そしてこの記念行事の司会を務めたのが沈金龍だった。
沈金龍のもうlつの政治的業績は、2014年8月、ハワイでおこなわれた環太平洋海上合同演習に、編隊を率いて初めて参加したことである。これは、アメリカと中国の海軍による交流や相互訪問の山場であり、アメリカ軍の艦隊が主宰して各国海軍のエリートの参加を呼びかけるものである。合同演習の主たる項目は、テロ対策、海賊対策、海上でのパラシュート降下による捜索・救出活動、人員・物資の陸揚げ活動、などである。
この合同演習で要求される水準は非常に高いものであり、日本やインドなども編隊を率いて参加しており、この演習の機会に各国海軍の実力や訓練のレベルを検証している。
沈金龍は、新型の駆逐艦と陸戦隊の特殊兵を率いてアメリカ軍との相互編制による合同演習に臨んだ。沈金龍は背丈の点では不利だったが、戦術の動作の機敏性や射撃術の準則性では少しも遜色がなく、アメリカ軍に強い印象を与え、見くびられるようなことはなかった。
だが、主力艦の装備やトン数では外国の軍隊に遠く及ばず、アメリカの艦艇が高度に情報化されていることと比べると、その差はかなり広がっており南海艦隊の士官も兵士も、外国軍艦船への訪問のさい、ただ虚心にそれらの先進的な装備を仔細に見学していた。中共海軍が初めておこなったそのアメリカ軍との合同演習は、軍事委員会が特別に重視していたものであ年沈金龍に対しては、油断することなく十分な準備をして、中国の軍隊の威光を発揮するよう求めていた。
緊迫する南シナ海情勢
アメリカと日本は軍事同盟を強化し、その上フィリピンを焚き付けて小細工をさせ続け、またインドもベトナムに手を出し、こうして大包囲網を形成して、必死になって中国の台頭を押さえ込もうとしている。またASEAN各国も、中国が南シナ海でおこなっている埋め立てや人工島建設に対して警戒心を抱いている。
沈金龍が率いる南海艦隊は、現在まさに、歴史に前例がない危険で厳しい試練に直面しているのであり、いつなんどき艦艇や飛行機の衝突事件が勃発するかも分からない。現に中共の戦闘機はフィリピンの艦船や飛行機を追い払ったことがあるし、アメリカ軍の「P3C」機は三亜軍港に接近して情報の傍受をおこなっており、中共軍に警告されたこともある。
南海艦隊湛江基地の兵舎区の外壁には、ペンキで「明日にも戦争をしなければならないが、君にはその準備ができているか?」「自発的に行動し、勇気を出して先頭に立とう!」というスローガンが大書されている。これは、当局が本気で積極的に戦争の準備をしていることを示している。
だが兵舎区には、「戦争は起きない」とか「平和的発展こそが本流」などと考えている士官や兵士もいると聞く。どうやらスローガンは役に立っておらず、艦艇の水兵はそのスローガンとは別の見方をしていることが分かる。
南海艦隊の指導グループはすでに何度も入れ替えがおこなわれ、現任の沈金龍は北海艦隊から転任してきた人間であり、事実上、南北の艦隊ではその水兵に違いがある。沈金龍が、北海艦隊とはまた違う南海艦隊の部下の言うことに耳を傾けることができるかどうか、また南シナ海における先鋭的で複雑な情勢に対してどういう慎重な対処ができるのか、大いに見物(みもの)である。
(「月刊中国155号 2015年8月号より)
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